東京高等裁判所 昭和56年(く)36号 決定 1981年3月04日
少年 M・M(昭三八・一二・一〇生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、付添人○○○○が提出した抗告理由書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論は、少年を○○保護観察所の保護観察(短期)に付した原決定は、本件交通違反をした場所が交通閑散で危険性がなかつたこと、帰宅を急ぐあまりたまたま犯した違反であること、現在高校二年に在学し、家庭の保護環境にも特に問題とすべき点はないこと、本件保護処分に付されるとこれが近隣者にも知れ渡つて社会的にも疎外され、かえつて少年に有害な結果を招くことになる等の諸事情に照らすと重きに失するのでその取消を求める、というにある。
そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録を調査し検討すると、少年は昭和五五年六月原動機付自転車の運転免許を取得したが、同月のうちに通行禁止違反を犯して反則金三、〇〇〇円に付された前歴を有し、しかも本件はその僅か四か月後に法定速度毎時三〇キロメートルのところ無謀にもそれを倍以上もこえる毎時七〇キロメートルの速度で原動機付自転車を運転した、という事案であり、仮りに所論がいうように同所の交通が閑散であつたとしても、全く人車の往来のない場所というわけではなく、さらに本件車両の構造、規模、性能等をも考慮すると、本件のような行為は極めて危険な態様のものといわざるを得ず、少年の将来にわたるこの種非行の再発を防止し、その健全な育成を期するには交通関係の非行性が深化しないうちに適切・妥当な一定の教導・処遇を必要とするものと認められるところ、少年交通事犯につきなされる保護観察(短期)は、いわゆる非行の早期発見、早期治療の観点から、まだ非行性が固定せず、資質、保護環境にもさほど問題のない少年を対象として、講習会等を中心とした集団処遇を集中的に施して遵法精神のかん養、安全運転に関する知識の向上及び安全運転態度の形成を図り、特段の支障がないかぎり短期間の経過をもつて保護観察を解除するものであつて、所論が危惧するような社会的疎外等の有害な結果を招くおそれはないのであるから、本件行為の態様、性質等の犯情、少年の問題性、要保護性の内容・程度にかんがみると、短期の保護観察は適切・相当な処遇方法と認められ、その他一切の事情を検討しても原決定のした処分に不当のかどはない。
よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小松正富 裁判官 寺澤榮 苫田文一)
抗告理由書<省略>
〔参照〕再抗告審(最高 昭五六(し)三七号昭五六・三・二七(三小)決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、違憲をいうが、実質は、少年を保護観察(短期)に付した本件処分が不当に重いとの主張にすぎないものであつて、少年法三五条一項の抗告理由にあたらない。
よつて、少年審判規則五三条一項、五四条、五〇条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)